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個別記事の管理2016-01-10 (Sun)
Weiβシリーズ第二部「Weiβ Justiz」
※web拍手第二部終盤連載の都合上、後半を一時的処置でブログに掲載しています。







※Weiβシリーズの設定を練り直しているため、サイトにある同シリーズ作品と辻褄が合わない部分があります


Weiβシリーズ第二部「Weiβ Justiz -11-」




シュンッと、ブレイクルームの出入り口である扉がスライドした音にフリットは丁度飲み干したカップを口から遠ざける。
佇まいを直そうとしたフリットであるが、此方に来た男が有無を言わせず腕を掴んできた。引っ張られ、その勢いで椅子から立ち上がらせられる。

「何の話か判ってるな」
「判って、ます」

妙な緊張感を覚えながらも、フリットはウルフに頷き返した。

「俺の部屋に来い」

続けられたその一言にフリットの全身が硬くなる。
ガチガチに固まっているのが腕を掴む掌から伝わってきたことにウルフは眼を細める。来るのか来ないのか。どうするんだと、フリットの腕を軽く引っ張れば、彼女は面をあげた。



腕を掴まれたまま、フリットはウルフの部屋に連れてこられる。足下を付いて来ていたハロはほんの僅かな差で部屋に入れずに扉が閉じてしまい、通路側に弾かれてしまっていた。うろうろと扉の前で転がっていたハロは目のような二つの点を点滅させると、門番のような出で立ちで扉の横に位置を落ち着けた。

ハロが消えていることに気付いて、あそこでウルフに行くと頷いたことは正しかったのかどうかを考える余裕もなく、フリットは仰向けでベッド上に放られた。
衝撃に目を閉じて、スプリングの軋む音が消えかかる頃に目を開ける。同時に、顔横に指で摘む程度の小さいパックが放られてきた。
それが避妊具のゴムであることをフリットは視認した途端、沸騰しそうな心臓を押さえるように胸に手を置く。

段取りさえなく、いきなりのことにフリットが動けずにいれば、ウルフもベッドに乗り上がってきて真上に覆い被さってきた。心の準備も何も出来ていないフリットは困り眉でウルフを見上げたが、上にいる男は表情一つ変えずに唇を落としてくる。

唇同士を撫で合わせるようにされ、刺激の少なさに一抹の疑問を抱く。けれど、男の唇が下に降りてくるのに緊張が蘇る。
スカーフを解かれ、際どい弱いところを撫でられながらゆっくりと制服を乱される。ベルトはそのままで制服の前を開けられ、インナーも。

覗いた乳白色の下着とその奥の肌色の曲線にウルフは喉を鳴らす。
鎖骨にあたる狼の獣息の熱さにフリットは息が上がりそうになり、歯が立てられたくすぐったさと次の瞬間を待ちわびて声を漏らす。けれど、牙は立てられなかった。
痕が残らないであろう甘噛みだけで済ましたウルフは一度身を引いて、困惑しているフリットの顔を見る。それから、彼女の首と肩の間に顔を埋めて抱きつく。
何かしてくるかとフリットはじっとしていたが、そんな気配は全くなかった。

「あの……ウルフさん……」
「あー、今我慢してるから待ってろ」

何を我慢しているというのか。問い質したかったが、焦っているウルフの声色にフリットは口を閉じた。

浅く長い息を吐き出しきったウルフはフリットの上から退いて、ベッド上に膝を崩して座り込む。その様子を、肘で身体を支えながら起き上がったフリットは目で追う。

「ウルフさ――」
「前を閉じろ」

発言を食われたことよりも、ウルフの言った意味の方が余程理解に苦しんだ。
相手に対して不理解を持っている自分自身が煩わしく、フリットは前を合わせるように浅く胸元を抱く。衣服を整える前にウルフを見つめる。

「……しないんですか?」

目を瞠ったウルフは、フリットの指先が震えていることに気付くと視線を投げた。

「何のために我慢してやったと思ってる」
「判りません」

声まで震え始めたフリットは自分の口元を手の甲で塞ぐ。ウルフに気遣ってほしいわけではない。弱味を見せないように耐えようとする。
ただ、それでも、誤魔化されるのだけは厭だった。自分も、誤魔化したくはない。

「お前が小さいからだ」
「ちい、さい……?」

フリットは自分の胸元に視線を落とした。視線を外していたウルフはそっちも大事だが、今の話はそうじゃないとフリットと目を合わせる。

「そこそこ痛がってただろ」
「そんなこと」
「痛覚に関して鈍くはないんだろうがな、痛いのが好いってのは自傷と変わらん」
「………」
「無自覚だとは言わせねぇぞ」

ウルフの指摘はこの間のことだけでなく、フリットの今までを含めてのものだ。自分自身の犠牲を厭わないのがフリットの正義感であるのはつくづく思い知っている。痛みに対して強いのもそうだ。平気な顔をする。
むしろ、痛みを背負うことで安堵している節も垣間見える。自分が痛むことで自分以外の誰かの傷を肩代わり出来ているとでも思っているのだろう。そんなふうに痛みを甘受していたら、いずれ傷は膿みとなる。けれど同時に、フリットならばそこまで悪化させないと信用もしている。過保護になって心配しているのとは違う。

ただ、安堵に関してはウルフも抱いた後で気付いたことだ。最中になかを傷つけたが、フリットが「ウルフさんからなら構いません」と言うから舞い上がった勢いで続けてしまった。
ウルフは同じ失態を二度しない主義だ。

叱られたように縮まるフリットにウルフは頭を掻く。悪いのはこっちの方なんだがなと、上手く伝えられない。
個人を形成する根幹を覆すのは不可能だ。それこそ生まれ変わるしか方法はないだろう。だから、痛みを背負うことをどうこうしろと言う気はない。此方は傷口を拡げたくないだけだ。

「フリット、お前の身体はまだ大人じゃねーよ。大きくなったら、そんなに痛くもなくなるはずだ」
「また、二十歳になるまではってことですか?」
「節目としてはその辺だろ」

フリットは口を閉じ、眉を詰めた。ウルフの言い分に自分は文句を言える立場ではないからだ。彼が思っているほど痛みを感じていたわけではないにしても。
経験というのはあれが初めてであったし、ウルフとどうだったか言葉では言い表しづらいけれど、激しかったのだと思う。それでも、辛くないか顔を覗き込んで確かめてきたり、頭や顔を撫でて和らぐようにしてくれた。
優しく抱いてくれた男に仇は返したくない。

「待てないか?」
「…………」
「待つって言え、フリット。でないと俺が」

その先をウルフは自分で塞いだ。
不自然に言葉を切ったウルフを、フリットは首を傾げて見つめる。その身動きで衣服が下がり、素肌の肩が覗く。
無防備なフリットを前にウルフは大きく喉を鳴らした。
どうすればフリットにとってためになるか考えている。けれど、味を知ってしまった。

「でないと、何ですか?」
「それは忘れろ」

切って捨てるように遮られ、フリットはシーツを両手で握りしめた。あの時もウルフはすぐにはしてくれなかった。まだ早いと。だから、あの日のことを彼は後悔しているのではないかと不安が強くなる。

「……それって、する気がないってことですよね」

それでも、声だけは努めて平静を装った。

沈黙する。そんな中、ウルフが近寄ってくる気配があった。シーツが擦れる音に迫られ、フリットは肩と背中を強ばらせる。傷を負うのは平気だ。けれど、この、胸の軋みは平気ではなかった。
二の腕のあたりを両方強く掴まれ、フリットは堪えるように目をぎゅっと閉じた。

怯えるように縮まるフリットをウルフは見下ろし、悪態を吐いた。さらにフリットが悲しそうに怯える。

「でないと、俺がお前を喰っちまうだろ」

フリットから怯えが消える。顔を持ち上げようとした彼女と視線が合う前に、ウルフは耳元に唇を寄せた。

「ずっと抱きたくてしょうがないぜ。フリットを滅茶苦茶に可愛がりたいってな」
「ッ……!」

狼の声と吐息に触発されて、フリットの全身が熱くなる。
頬がとてつもなく熱にうなされているが、此方の腕を解放して身を引くウルフに少し冷静さを取り戻す。彼の言ったことが俄には信じられない。

顔の赤さを見られたくないからと視線を投げていたが、その先にウルフが放った封がされたままの避妊具が落ちたままになっていた。手に取り、これを何処から出したかとフリットは少し前の記憶を手繰り寄せる。ベッド下からではない。彼はジャケットの内側に手を入れていた。
ずっと、持ち歩いていた。その事実が指す意味にようやく気付いて、彼の言葉に一切の虚偽がないと信じられた。胸の軋みまでが熱に変わる。

フリットは衣服の乱れを直し、首元にスカーフを通した。ウルフと膝をつき合わせる距離で足を揃えて姿勢を正す。

「判りました。待ちます」

待っててくださいと続けたかったけれど、言葉にはならなかった。ウルフの譲れない何かの正体がまだ知れないからだ。知りたいとは思っていない。きっと、彼が胸に秘めるべきものであろうから。
それが理由かと思っていたが、それも理由だった。
理由が一つだけとは限らない。年月の問題が無くなったところで、理由が無くなるわけではない。

真正面から真っ直ぐに視線を合わせるフリットの面差しは落ち着いたものだ。達観さえ垣間見えていたが、その表情が少しずつ崩される。
此方の胸に抱きついてきたフリットをウルフはしっかりと抱きとめたが、次の言葉に顎を引く。

「すみません、役不足で」

ウルフの好きなようにしてもらいたいけれど、そう出来ない原因が自分にもあるのだとフリットは自分自身を責める。

「そんなことは言わなくていい」

フリットが補えていない部分を自分が補ってやるべきでもあるが、それが可能であったならば、自分はこんなことを彼女に言わせなくて済んでいる。

「足りないのを埋めてやれんが、お前が一人前になれるように俺が教えてやる」

フリットの頭を撫でくる。すれば、不満そうな顔をされたので、子供扱いが厭なのだろうと手を放した。けれど、彼女は不満そうな顔のままだ。

ウルフの肩に手を置いて膝を立たせたフリットは、自分から彼の口端に唇を押しつける。本当は食み合いを求めていたが、上手く出来なかった。
腰を落としてやり逃げしようとしたフリットを腕で掴まえ、ウルフはフリットと額をくっつける。

「なんだよ、こういうのも教えてほしいのか?」
「……」

指摘通りだ。けれど、そういう子だと思われたり、からかわれるのが厭でフリットは唇を内側に閉じる。
フリットの杞憂を掘り下げず、ウルフは鼻を鳴らした。それを皮切りに、狼は表情を逆の意味で豹変させる。

真顔になったウルフを前にフリットは逃げられず、唇を奪われた。自分から閉じていた口を開いてしまえば、すかさず狼の舌がねじ込まれる。

「……ン」

熱っぽく喉を鳴らす。
唇を繋げたまま、押し倒される。くちゅっと湿った音が室内に響き、フリットはむずがる。口端まで濡れているが、自分のものかウルフのものかもう判らない。

奥の方が熱くなってくる感覚にフリットは自分の足をすり合わせた。このままでは、いけないことになるとウルフを押し剥がす。

「もう、いいです」

充分だと主張したが、ウルフは聞く耳を持っていないのか、再び唇を奪ってきた。
さっきのが、なけなしの力だった。もう力が入らず、フリットの両手はそれぞれウルフの手に捕らえられる。指と指を絡ませ合う繋ぎ方で。
フリットが右手に持っていた未開封のそれは、ウルフとの手の間に挟まっている。

口内も舌も蹂躙されているような激しい攻め立てに耐えるなど出来ず、フリットは甘い痺れを感じて手足の指を丸め、浅く腰を浮かす。
此方の手を握り返してきた指の力が抜けるのと同時に、ウルフはフリットの唇を解放した。手はそのままだ。

胸を上下させて、あられもない表情を晒しているフリットから経験不足が滲み出ている。教え甲斐があるとウルフはもう一度貪ろうと唇を近づける。だが、その前に。

「言っただろ、お前を滅茶苦茶にしたいって。キスだけでまたイかせてやる」
「ぁ、あの、本当にもう……これ以上は」
「黙ってろ」

喘ぎごと唇を奪う。食んだら食んだで、フリットのほうからも舌を絡ませてきた。彼女の意思というよりは、身体が言うことを聞かなくなっているのに近いだろう。理性的な奴から本能を引き出していることにウルフは快感を覚える。

気付けば、ぐったりとフリットはベッドに沈んでいた。原因は酸欠かウルフの技巧な舌使いか、理由が曖昧だろうが明白だろうが、少し意識が飛んでいたことは事実だ。
ぼんやりしていると、顔に影が掛かった。ウルフが覗き込んできていると認識して頭が一気に醒めた。口元を拭い、フリットは背を起こす。散々やっておいて気遣うのだ、この男は。

多分立てるはずだと、フリットはベッドから降りようとする。けれど、手首を掴まれてウルフを振り返った。

「まだ終わってないぜ」
「え」

流石に痺れきっている唇を強ばらせたが、ウルフが続けたのは予想に反していた。

「腕枕」
「ぇ、あれ?うでまくら?」
「またしてやるって言ったはずだが」

きょとんとしていたフリットだが、瞬きを二回して思い出した。そんな律儀にあの発言を守ってくれなくても良いのだけれどと首を傾げる。

「ウルフさん、任務があるんじゃないですか?もうすぐ哨戒の時間だったと思うんですけど」
「とっくに過ぎてるぞ、そんな時間」
「でも、それじゃあ……ッ、すみません」

自分がウルフを拘束してしまっていたということになる。時間厳守は軍人の責務だ。フリットも規則は守らなければならないとすり込まれているし性分としてもそうだ。だから、ウルフに責務を破らせてしまったことを申し訳なく思う。

眉を下げて謝っても謝りきれないと肩を落としていくフリットの様子を前に、生真面目だなと感想する。ウルフは掴んだ彼女の手首を引っ張る。

「ラーガンに頼んである、お前が気に病む必要ねぇよ」
「だ、駄目です」

まだラーガンを巻き込んだままであることをさらりと告げられ、フリットは益々肩身が狭くなる。

「だから気にするなって。あいつには後で飲みにでも誘っとく」
「そういう問題じゃ……」

酒のことはいまいち判らず、フリットは言葉尻があやふやになる。

柔らかい頬を両手で挟み、フリットを上向かせたウルフは彼女を良い子にさせようとする。勿論、自分にとって都合の良い意味で。

「俺の腕枕に不満はないんだろ?」
「そういうことばかり覚えておかないでください」

不服そうな顔をしつつも、フリットは仕様がない人だと身体から力を抜いた。

先にベッドに寝そべったウルフの横に手と膝をついたフリットは彼の腕にそっと頭を置く。腕は痛くないだろうか、これで大丈夫だろうかとフリットは不安そうにウルフを見つめた。

「もっとこっちに来い」

腰にウルフの腕がまわり、ぐっと引き寄せられた。鼻先が触れ合いそうなくらいの距離にフリットの鼓動が速まる。

背筋を通って、腰にまわされていたウルフの手が髪を束ねているリボンに触れる。撫でる動きが項に伝わって、フリットはくすぐったそうに眼を細める。
しかし、珍しく気難しい顔になっているウルフに瞬く。もしかしてと、フリットがリボンに視線をやろうとすれば、気付いたウルフが頬をつついてきた。

「まぁ、妬いてるには妬いてるけどな」

このリボンをフリットが手放せない理由には頷けた。此方がGエグゼスのことを話した後、彼女は自分の髪を結うリボンの贈り主のことを語ってくれていた。

リボンには妬かなくなったが、フリットのことを身を挺して守った少女の生き様には妬いている。
けれど、少女がフリットに遺したものを書き換えたくはない。その先に死があるからこそ、生きることそのものは貴く在る。命を軽んじてはならないことを少女との邂逅でフリットは充分に理解したはずだ。自分のような人間では教えてやれないことだ。
だから、リボンのことを、本来の持ち主のことを気にしてフリットを抱かないと主張しているわけではない。理由の一つではないとはっきり断言しておく。

見るからに安堵したフリットにウルフは顔を近づける。

「俺の惚れた女が良い女だってのは変わらないぜ」
「だから、僕はそういう人じゃありません」
「同じことを言わせる気か?」
「………ヒールは履けるようになりました」

自分も人のことは言えないが、ウルフの自信過剰なところは勘弁して欲しい。過剰では少し語弊があるだろうか――言ったことをやってのけてしまう。だから、それくらい自分だって出来ると張り合ってしまい、後戻り出来ない状況に陥る。

「上出来だ」

それに、わりと些細なことでさえこうやって褒める。誰にでも出来そうなことでも、お前にしては頑張ったと。
照れが混じり、反発しづらくなる。
じっとしていられず、身じろぎすれば、ウルフがまた難しい顔をしてリボンに触れてきた。

「ほどいていいか?シワになるぞ」

大切なものだろと含み言われ、フリットはそれで難しい顔をしていたのかと納得した。横になれば寝痕が付くかもしれない。解くべきか解かないべきか迷ってくれていたらしい。

「じゃあ、お願いします」

リボンが解かれ、ウルフの手に丁寧に畳まれる。
さらりと流れたフリットの若草色の後ろ髪に目を奪われ、ウルフは三年の月日を想起させられた。

「お前さ、俺が告る前から俺に惚れてたか?」
「え。さあ?」

考えてもみなかったことだったとフリットの顔に書いてあり、ウルフは若干だが落胆する。けれど、色気のない返答はこいつらしいと腑に落ちる。

感情ほど曖昧なものはない。言葉に出してみたりしないと形にならなかったりする。意外と、本人が預かり知らぬところで最初の一歩が踏み出されているものだ。

意識が足りていないだけだと言い聞かせた。それより、髪が頬や首筋にかかっていると、色気のないことを口にする唇でも妙に艶めいて見える。

「髪下ろしてるとエロいな」
「ウルフさんのために伸ばしてません」

何のために伸ばし始めたか。それはフリット自身判然としないが、面倒な手入れは続けている。自分の髪なのだから自分のためであるが、この髪に一番触ってくる相手はウルフに違いない。前から頭を撫でてきたり嗅いできたりする。
放っておいてくれていいのに、よく構ってくる。

「ウルフさんこそ、僕のどこが良いんですか?」
「さあな」

言い草からして、はぐらかされたのはフリットでも判った。それでも追求しないのは、何となく、ウルフが照れ臭いと表情にしたように見えたからだ。

そろりと、躊躇うように頬に触れてきた小さな手にウルフは表情を改める。

「どうした」
「いつも、ウルフさんに何かしてもらってばかりで。僕から触ったら……駄目ですか?」

手を下げようとしたフリットの手を取り、ウルフは彼女の手を自分の頬に押しつける。

「好きなだけ触れよ」

声色に促され、フリットは恥ずかしそうに頷いた。ウルフの手が離れたところで、彼の頬を撫で、髪を撫でる。見た目よりも柔らかい髪の感触に目を瞠りつつ指先に絡ませたりする。ウルフが吐息を零す仕草にまで心臓が高鳴る。

不意に頬に感じた温もりにフリットはそちらを見遣る。ウルフの手が頬を包んできて、フリットは殆ど無意識に自分から彼の手に頬ずりする。仄かに嬉しそうな顔をされてウルフは感じたことを口にする。

「お前、よく笑うようになったな」
「そうですか?」

不思議そうに首を傾げたフリットは思い返してもみたが、やはり自覚はない。別段、笑わない方というわけでもないはずだと。

その様子にウルフは微笑する。自分の前では生意気な態度の方が目に付いたのだ。今もそうだったりするが、笑顔は格段に増えたと感じている。

「まだ早いか……まあ、いいか」

そんなふうに前置きしたウルフはフリットの頬を撫でていた手をそのまま口元にまで下ろし、指で唇を撫でる。

「フリット」
「はい」

真剣な声音に焦点を引き寄せられ、フリットはウルフを真っ直ぐに見つめ返した。

「愛してる」

狼からの告白にフリットは「ぁ」とか「ぅ」とか声が出ながらも言葉にならない。自分から彼に好きだと告白を返した時と同じかそれ以上に顔が真っ赤に染まる。
どうすれば良いのか判らずにいると、ウルフが顔を寄せてきた。返事を求められていることに気付いたフリットは更に顔が熱くなる。けれど、呼吸の乱れを何とか落ち着ける。

自分から、唇を触れ合わせた。

* Category : 小話
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