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個別記事の管理2015-12-26 (Sat)
Weiβシリーズ第二部「Weiβ Justiz」
※web拍手第二部終盤連載の都合上、後半を一時的処置でブログに掲載しています。







※Weiβシリーズの設定を練り直しているため、サイトにある同シリーズ作品と辻褄が合わない部分があります


Weiβシリーズ第二部「Weiβ Justiz -10-」




何だかんだで三週間近くフリットはデインノン基地に滞在中だった。中と言うからには、まだ“トルディア”に戻る目途が立っていない。
基地側に拘束されていることはなく、見計らう時期をフリット自身が決断しきれずにいるのだ。

此処のモビルスーツパイロット達に混じって模擬戦に参加させてもらったりと有意義に過ごしている。ガンダムの模擬戦参入も軍人達に好評で好意的に認可が下りていた。
ビッグリングだとこうはいかない。ガンダムを使用する模擬戦は控えるよう総司令官から直々に厳重されているからだ。ビッグリング内に機体そのもので戦闘力を計る設備はない。模擬戦をするならば宙域に出なければならないのだから、秘匿扱いのガンダムを易々と動かすなということだ。

だが、デインノン基地を始め、コロニー内の連邦基地用模擬戦地は市街への被害が出ないように敷地内に隔離されるように設けられているものだ。“トルディア”の基地にガンダムを搬送して貰えることもあるが、厳重に管理されてしまうため少し動かす程度のテストでさえも幾つかの手続きをしなければならず、かなり窮屈な制限が掛かっている。

ここでは制限が緩いのはガンダムが物珍しいことともう一つ。コロニーの特性上、基地の責任者の羽振りが良く、大概のことは金品で解決してしまうためだ。
理由は少々引っかかるが、これだけ自由にさせてもらえるのは有り難いことだった。

“ノーラ”のアリンストン基地が懐かしいと、フリットは朧気に重ねていた。アリンストン基地でガンダムを動かしたのは、あれが最初で最後になったことを思うと胸が軋む。
ブルーザー司令の姿を脳裏に浮かべ、彼の言葉を強く胸に刻み直すことで感傷を遠くした。

「フリット」
「はい」

向かいの席から立ち上がったウルフの声にフリットは返事をして見上げた。彼は他のモビルスーツ部隊とのミーティングがある旨を此方に伝えると、そのままブレイクルームを後にした。

いつも通り。フリットは内心で言葉にしてカップに注がれている飴色の紅茶に視線を落とす。
茶葉の抽出時間が適切なくらいにいつも通りだ。薄すぎず濃すぎず。

「ミルクが欲しかったな」
「持ってきましょうか?」
「え。ぁ、いえ、お構いなく」

別のテーブルでラーガン達と話し込んでいたミレースは室内に備え付けの給湯器までコーヒーを取りに行こうとしていたところだ。
彼女の気遣いにフリットは慌てて首を振る。ミルクティーが飲みたいわけではなかった。そう受け取られても可笑しくない発言をしてしまったことを訂正する上手い言葉も見つからない。

「それ、もう冷めてるでしょ。ついでだから淹れ直してあげる」
「すみません」
「いいわ。中尉達のところで待っててもらえる?」
「有り難う御座います」

ぎこちない態度であったのを汲み取ってくれたミレースに頭を下げ、フリットは言われた通りにラーガン達の席に移動する。
会話は聞こえていたようで、同じテーブルにつくとラーガンが手を挙げて迎えてくれる。その横にはアダムスの姿もあった。

フリットの後をついて来ていたはずのハロが飛び出し、アダムスの横を陣取る。ビッグリングの通路でぶつかりそうになった時、受け止めてもらったことを覚えているのかもしれない。ハロからのアピールに彼は戸惑い半分で、その硬い丸みをぎこちなく撫で始める。

アダムスはデインノン基地勤務になったわけでも、ラーガン同様にフリットと共に派遣されてきた扱いになっているわけでもなかった。
グアバランの協力を得て、ラーガンがビッグリングから呼び寄せたのだ。
無論、この度のヴェイガン同時多発襲撃の件についての調査を水面下で独自に執行するための捜査員として。

確証はないが、連邦政府も絡んでいる可能性を考慮してフリットが関わることをラーガンは是としなかった。ガンダムは銀の杯条約に違反していると見解を持っている為政家も少なくない。目を付けられる行為は控えるべきだとの判断にフリットも否は唱えなかった。

関わるなと言われてはいるが、多少掻い摘んだ話は聞かせてもらえている。だから疎外は感じていない。
ただ、口出しするなということだ。関わらず、聞き役に徹するのが条件であることを弁えている。
自分なりの考えも内情にはあるため、燻りは多少なりとも潜んでいるのがフリットの本音ではあったが。

「待たせたわね」
「いえ」

ミルクの香る紅茶をミレースから差し出され、フリットは会釈で礼を言う。

ラーガンの向かい側になる奥の席にフリットは坐し、その隣にミレースが席を落ち着ける。コーヒーを戴くミレースを見遣り、フリットは自分の目の前に置かれた同じ形のシンプルなカップに視線を転じた。
ミルクティーにしてくれた手間を思うと感謝したいのだが、フリットとしては複雑なところだった。ミルクを入れると味が丸く優しくなるので嫌いでは無かったけれど、白といえば彼なのだ。

折角、淹れてくれたのだからと、フリットはカップを持ち上げて小さく口を付ける。ちびりと飲んでいると、視線を三つも感じてフリットは顔を上げた。
ラーガンに、ミレースとアダムスまでもが、自分を注視していることにフリットは首を傾げる。

「何か思い詰めてるだろ」
「え?……ぁ、いえ」

フリットはラーガンの指摘に瞬いた後でぎくりとする。もしかして気付かれてしまったのかと、カップをテーブルに戻す。
その様子に今度はミレースから。

「貴女は思慮深いから考えすぎてしまうでしょ?」
「此処だけの話にしておく。言いたいことがあるなら言ってもいい」

アダムスからも重んずる促しが続き、フリットは言っても大丈夫だろうかと心に置く。それから、ラーガン達を見渡す。心配してくれている彼らを前に、思い切って意を決した。

「あれから……ウルフさん、何もしてこなくて。それで、あの……」

どうしたら良いのだろうかと、相談する言葉は出てこなかった。空気が何かおかしいことにフリットが気付いたからだ。

三人とも表情が止まっている。ラーガンが一人、先に我に返ってフリットの話に合わせるべきだとミレースとアダムスに目配せする。
しかし、フリットは自らの過ちに気付いてしまった後だ。

ウルフがこの部屋から出ていった後であったし、この三人は自分達のことを知っているからと先入観があった。一番の欠点はウルフのことばかり考えていた自分だ。
三人が気を揉んでくれていたのは、ヴェイガン襲撃に関わる事柄についてに決まっている。冷静に俯瞰すれば簡単なことだ。自らにとっても最優先すべきもので、常に頭の片隅に置いていたというのに。

「何でもないです。忘れてください」

奥側に座るんじゃなかったと、フリットは逃げ出しにくい位置を恨めしく思う。
完全に俯いているフリットのつむじに視線を落としたラーガンは頭を掻く。

「フリット、あのな、俺達は構わないから。それでウルフがどうしたって?」
「だから何でもないから!」

顔を上げたかと思えば、直ぐにそっぽを向いたフリットは完全に拗ねている。此処まで赤恥の感情を強く表にする様子は皆無に等しく、この中で一番付き合いの長いラーガンでさえ驚きに舌を巻いた。

フリットがたった一人を意識しすぎている状況は非常に珍しい。
ウルフにガンダムを賭けた模擬戦を挑まれた時も似たような様子であったと記憶しているが、決定的に違うことがある。

「何でもないようには見えないわよ」
「………本当に何も」

心配そうな声音のミレースの顔を振り返り、同じように眉を下げたフリットは視線を戻して俯き気味に表情を落とす。
前髪で目元は確認しづらいが、憂いの面差しを見て取ったラーガンは、決定的な違いを確信する。悔しさではなく、不安があるのだ。

フリットが不安を抱くのは、ウルフを意識している根幹に執着が見当たらないからだろう。
執着とは盲目だ。一途であればあるほど、自己中心的に陥りやすい。しかし、目を配ることに長けているフリットは周囲を見失わず、しっかりと見据えている。だからこそ、ウルフの意向を無視することは絶対に有り得ないことだ。
それ故に、何を優先したら良いのか判らなくなっている。

「俺も大丈夫そうには見えないぞ」
「平気ですから」
「ウルフが何もしてこないって言ったように聞こえたけどな」
「………僕とウルフさんの問題だから」

此方から口を出すべきことではないと、ラーガンは今まで見守ることに徹していた。けれど、時と場合によっては厭わないことを今決めた。何よりも、自分の大事な妹分の不安を取り除いてあげたかったからだ。

「ああ、二人の問題だ。でもな、抱え込み続ける必要はないと思う。俺達以上にウルフには言い出しにくいことなんだろ?」
「それは、そうだけど」

佇まいを直し始めたフリットは、膝に置いた両手に視線を落とす。指を絡ませたり擦ったりと落ち着きがない。ラーガンが指摘する通り、ウルフを問い質して彼本人から答えを得ることに物怖じしているのだ。

有耶無耶にしたい気持ちでいると不意に、紅茶から漂うミルクの優しい香りに嗅覚を撫でられ、面を上げる。
フリットの面差しを真正面に受けて、ラーガンは耳を傾ける姿勢を見せた。



フリットからの話を聞き終えて複雑な心境を抱えたまま、ラーガンは通路をブリーフィングルームに向かって進んでいた。
ウルフの居所に向かっているわけだが、どうにも自分の頭の中を整理整頓出来ず、額を片手で覆う始末だ。

フリットに大口を叩いてしまったし、兄貴分としての見栄もそれなりにあるため、引き下がるわけにはいかなかった。
アダムスが自分とミレースは席を外した方が良いのではないかと早々に申し出てくれたのは幸いだった。二人も途中まではフリットの話を聞いていたから、今頃は……。



居住区に向かって肩を並べている男女の空気は異質……でもなかった。

「ミレースは私よりもウルフとフリットの二人と話すこと多かったよな?」
「そうだと思うけれど、何か?」
「ラーガンから事前に聞いてはいたが、人の縁とは不思議なものだと思ってな」

感慨深げなアダムスにミレースも同意を示して頷く。
当時を思い返せば、ウルフもフリットも互いのことをパイロットの物差しで見定めていた。フリットは年齢も腕前も未熟な自分をウルフに自覚させられて対抗心を持っていたし、ウルフはフリットの才能を一目で見極めて将来を込みで同格と認めていた。二人の彼我に対する意識は客観的に見ても明らかだった。

「フリットも大人っぽくなりましたからね」

三年前、ウルフはフリットのことを最初は男の子だと思っていたという話だ。ファーデーンでのザラムとエウバのごたごたの一件を経てから女の子だと知って、ラーガンに確認を取り、自分の所にまで確認を取りに来たことをミレースは思い出す。些か、呆れた男だと感想したものだ。

勘違いしてしまうほど、フリットの外見も口振りも少年っぽかったのは否定しないけれど。
しかし、それも少し昔のことだ。口調だけはまだ男勝りなところがあるにしろ、流石に今のフリットを見て男と見間違うことはない。

「確かに、もしも街中ですれ違ったら気付かないくらいだ。ミレースは変わっていないから何処ですれ違っても気付けるだろうが」
「煽(おだ)てても何も出ませんよ」
「そんなつもりじゃないさ。他の奴らはどうしているかと思ってな」

ディーヴァで共に戦友を誓ったクルー達のことだ。それぞれと連絡を取ることに制限が設けられているため、音信不通に近い。まだ軍属であるとは思うが、コロニーの街中ですれ違うことがあれば、昔話の一つや二つはしたいものだ。

「私達もこうやって久し振りに顔を合わせることが出来ているんです。近いうちに会うことになるかもしれませんよ」
「そうだな、そう思っておく」

重々しくなりそうな自身をアダムスは吹っ切り、切っ掛けをくれたミレースへと感謝するように頷き返した。

「それはそうと、少尉の目にはどう映っていらっしゃるんですか?」
「あの二人か?まあ、別にいいと思うが」

当事者ではないし、外野からはそうとしか言えない。両想いなら面倒なこじらせ方をしないだろう。いや、こじらせていたからフリットの様子が思い詰めていたのだったか。
何はともあれ、自分は部外者だ。仲介役ならラーガンが一番適任である。だから席を外したのだ。

「ミレースはそう思わないのか?」
「口を出す気はありません。けど、フリットが不憫でならないというか」

相手があのウルフだ。振り回されないわけがない。
二人を見掛ける時も大概、フリットは困らされているか憤慨しているかのどちらかだ。ブレイクルームでの様子もウルフが原因だったのだから、心配にもなる。

いずれ、ウルフの大きな態度もフリットが原因と判ってミレースの悩みの種となるのだが、それは二十三年も先の話だ。

「意外と過保護だったんだな」
「そういうのとは違いますけど、ね。ブルーザー司令が、フリットに相手が出来たと知ったら驚かれたと思うんです」

はにかんだミレースに触発されてアダムスも苦笑する。
命を張って自分達を送り出してくれたブルーザーは勇敢な人だった。身寄りのないフリットの後見人を自ら申し出た彼が生きていたならば、きっと喜んでいただろう。もしくは、ウルフのことを認めてくれず、一波乱あったかもしれない。
アリンストン基地では、ブルーザーの補佐をしていたミレースは彼を通してフリットを見ていたからこそ、そう思う。



ミレースとアダムスが穏やかに会話を繋いでいるとは露知らず、ラーガンは冷や汗をだらだらと零していた。二人が何処まで勘づいてしまっているか気が気ではない。
しかし、まずは目先の問題だ。自分の請負った使命はウルフとフリットに話し合わせることだ。

『いいか、フリット。俺がウルフはこう思っているんじゃないかと言っても、それはウルフの言葉じゃない。だから、本人に訊かなくちゃ本当のところは判らない』

解決してやれないが、そのための手助けはしてやれる。そう見栄を張ってブレイクルームから出てきたラーガンは、通路の向こうから目当ての男が進んでくるのを視認した。
軽く手を挙げて立ち止まるように示せば、ウルフは目前で足を止め、後続している部下三人に先に行けと目で指示する。部下らの足音が消えかかると、ウルフは顎で用件をラーガンに問う。

「少しフリットと話してきて欲しいんですが」
「いいぜ。まだ、あそこにいるよな」

あっけらかんと、そのまま通り過ぎて行こうとしたウルフにラーガンは慌てる。

「いやいやいや、待ってください」
「何だ?他に何かあんのか?」
「そういうわけじゃないですけどね、人の話は最後まで聞くのが礼儀でしょう」

本人であるウルフを前にいきなり本題をフリットから口にするのは難しい。それを考慮して、ラーガンはまず先に自分が彼に説明するために此処まで来たのだ。
ウルフの左肩に手を掛けてラーガンは彼を引きとめる。

「だったら早く言え。こっちも忙しい」
「それは本当に申し訳ないんですが……。俺が言ったこと、まだ気にしているのかと思って」
「お前が言ったこと?」
「フリットを大事に出来る男は他にもいると言ったことです」

ウルフが眉目を歪ませて反応を示した。しかし、鼻を鳴らして一蹴される。

「そんなことか。あいつはもう俺のもんだって言ってるだろ」
「なら、俺の目を見て言ったらどうです」

無意識に逸らしていたことに気付かされたウルフは眉間の皺を濃くした。そのことにラーガンは深く溜息を吐く。技量に関してはウルフの方が自分より優秀だと認めているが、この男は自分より年下なのだ。

「責めているつもりはありません。貴方がフリットを大事にしてくれているのは判っていますから」

肩にあるラーガンの手をウルフはその一言を切っ掛けに振り払った。

「判ったような口を聞きくな」

唸るような低い声にラーガンは怯みそうになったが、ウルフは粋がっているだけだ。

「ウルフこそ、本当にフリットを判っているつもりですか」
「何が言いたい」
「大事にしすぎているんじゃないかってことです」

目を丸くしたウルフに意外な一言だったらしいと気付かされて、ラーガンの方も拍子抜けする。

「無自覚ですか?」
「いや……そんなわけじゃねーが。俺にだって色々ある」

色々あると不明瞭な言葉で途切られて、ラーガンはバイザーの奥を顰めさせた。そんな曖昧な理由をフリットに認めさせるつもりでいるのだろうか、この男は。

「一度だけで捨てるなんてことしたら、俺だってただじゃおきませんよ」
「そんなことは一言も言ってねぇだろ。見くびるな」
「なら、色々とは何ですか。具体的な説明をお願いします」
「……………破っちまったんだろーが」
「破った?」
「だから」

続いてウルフから説明された内容にラーガンは間抜け面を晒したが、生々しい内容に次第に顔を赤らめ、手でバイザーごと目元を覆う。
だいぶ気を付けていたが処女膜を傷つけてしまったと言うのだ。初めてだと慣れていなくて傷つきやすいものだが、上手くやれば出血しない。

「いいか、俺様は下手じゃない」

ひと差し指を突き付けられた。指を辿ってウルフの真顔を見遣ったラーガンはこの男の幼稚な部分を見てしまって現実逃避したくなった。

「身体の中を傷つけるのは大変なことですが、だからって」
「あいつの身体が出来てねぇってことだろうが。今は食って寝て育つべきだ」
「なら、それをフリットにも言ってあげてください」
「………色々あるって言ってるだろ」

ラーガンを一瞥してから、ウルフは腕を組んで壁に背を預ける。
フリットの身体が成長途中である理由も本心であり、自分が無理をさせてしまいそうだと言う気掛かりもある。しかし、それだけではない。お互い平行線であることは受け入れたが、自分は言い切れていないことがあった。親になれないことを。
それまで受け入れさせたら、予期せずともフリットの負担が辛いものになるのは避けられない。その後ろめたさを後回しにしようとしている。

「判りました。俺はそれで納得しておきます。けど、俺に言ったことと同じで構いませんから、フリットにもちゃんと説明してあげてください。それと、まぁ……スキンシップを少しお願いしたいんですが」
「スキンシップ?いつもしてるぞ」
「普通のではなく、そういうのを」

目を彷徨わせるラーガンにウルフは彼の言いたいことに勘づいて腕組みを解いた。まさかフリットがそこまでラーガンに相談していたとは。だが、それだけフリットが物寂しい思いをしていたのかと思えば思うほど、いじらしく感じてくる。
確かに、含みのある触り方は避けていた。普通に肩を叩いたり背中を押したりというのも比較的少なかったように思う。

「お前からお許しが出るなら遠慮しないぜ」
「二人きりで、お願いしますよ」
「了解だ。それと、俺も一つ頼む。時間掛かるだろうから、あいつらに言っておいてくれ」
「ええ、それは構いませんよ」

ウルフの部下であるササバル達に伝言くらいは容易い仕事だ。ラーガンは二つ返事で了承する。

先に行くラーガンの背中に、ウルフは自分も彼に用件があったことを思い出した。少し待てと背中を引き止め、顔を近づけて声を潜める。

「中佐に気を付けろ」

眉を片方跳ね上げたラーガンは直ぐさま視線を細める。ウルフを見遣れば、彼は声に出すなと口だけを無音で動かした。

嗅ぎ回ってるお前らのことをしつこく聞かれた。中佐って以前、ホテルの事件でフリットにも貴方にも良くしてくれたあのアレン中佐ですか?そうだ。何故。人は好いからな、弱味でも握られてんだろ。その辺は有り得ますね。忠告はしたからな。

読心術での会話を切り上げ、行けとウルフはラーガンの背を手の甲でノックするように押した。

「早く出世しろよ、ラーガン」
「競争しますか?」
「出来レースだろ」

軽口でラーガンを見送り、ウルフは前髪を掻き上げた。

* Category : 小話
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