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個別記事の管理2015-12-06 (Sun)
Weiβシリーズ第二部「Weiβ Justiz」
※web拍手第二部後半連載の都合上、中盤を一時的処置でブログに掲載しています。







※Weiβシリーズの設定を練り直しているため、サイトにある同シリーズ作品と辻褄が合わない部分があります


Weiβシリーズ第二部「Weiβ Justiz -8-」




どうやってデインノン基地にまで戻ってきたのかフリットにはあまり記憶がなかった。記憶力には自信がある彼女にしては珍しいことであったが、ウルフの発言のせいである。あれから頭が真っ白だ。

気付けば、食堂にいた。
色々あって暇もなくちゃんとしたものを食べていないことをラーガンに言ったような気がする。自分の隣の席についている兄貴分を見上げれば、彼はフランスパンにハムやレタスにトマトといった具材を挟んだサンドイッチを頬張っていた。フリットの席にも同じものがある。お互いに二つずつ。
厨房は時間的に今は夕食の仕込みに入っているらしく、簡単なものを調理場の者が用意してくれたのだ。厨房の奥に何人かいるが、食堂の食事スペースに二人以外の人影はない。

フリットもサンドイッチを手に取り、齧り付く。身体を動かし、食事という必要な行動を取ったことで意識が戻ってきた。しかし直ぐに落ち込んだ。次にエミリー達に会わせる顔がないと頭を抱える。

食事の手が進んでいないフリットにラーガンの方も頭を抱える。いつもと変わらないはずなのに、妹分の仕草一つ一つから女らしさが垣間見えていることが原因だ。何も可笑しなことはないのだが、少しばかり存在が遠くなってしまったような、娘が実家を出て行くような侘びしさを感じて頭が重い。
幸せならそれで良いんだがと、ラーガンはフリットに視線を落とす。あまり、そうでもなさそうな様子に視線を投げ出した。ウルフみたいなタイプは持て余すことぐらい承知であった。そういえば。

もそり、もそり。ゆっくりとサンドイッチをようやく一つ食べ終えたフリットは、もう一つに手を伸ばすか思案する。何となく手を付けずに、既に皿を片付けているラーガンに尋ねたいことがあると顔をあげた。しかし、三人の人影が食堂に入ってきたことで口を噤んだ。
ウルフ隊に所属するササバル、それにゴードンとダニエルだ。

向かい側の席に座る前にササバルがフリットを一瞥してからラーガンに視線で問う。頷いたラーガンに少女がいても構わないと承諾を受け取り、彼らは席に着いた。

「頼んでた件は裏が取れたか?」

開口はラーガンからだ。三人はそれぞれに頷く。

「ドレイス中尉の言っていた通り、複数のコロニーへの同時多発を狙った襲撃でした」
「俺が言ったんじゃなく、ミレースなんだがな」

軽い口調で訂正しているが、ラーガンの顔は真剣そのものだ。それに、内容に不穏を感じ取ったフリットの表情も硬くなる。

「どういうことですか」

表情通りの硬い声にラーガンはフリットへと視線を落とす。人情を重んじる兄貴分は憤りを感じながらも、妹分に真実を諭す。

「この間の襲撃はヴェルデだけじゃない。他にも同時刻に被害を受けたコロニーがたくさんあるんだ」
「そんな報道は――」
「されてない。何かしら情報操作されたんだろうな」

“ヴェルデ”で襲撃事件があったと報道はされている。しかし、他のコロニーにもヴェイガンからの襲撃があったことは“ヴェルデ”の住民は知らない。つまり、他のコロニーも同様だ。各自の被害しか報道されていない。
襲撃されたコロニーの数を把握しているのは連邦政府だけだろう。そこから報道の制限や操作をしていると踏んでいる。

「どうして、そんなことをする必要があるんですか」

鋭い剣幕の中にも戸惑いがあった。フリットはまだ何処かに連邦を信じようとしている気持ちを棄てきれずにいた。グルーデックと最後に交わした「連邦を信じるな」という言葉があったとしても。
誰かを信じたいと思うことは間違っているのだろうか。

「落ち着け、フリット。この件は軍の中でも、まだ一部の人間しか知らないはずだ。それに、ヴェイガンの目的も明確な意図が見えないんだ。上層部も何か考えがあってのことかもしれないだろ?」

目的が明瞭であれば論点から仮説を導き出し、それから検証を行なって示唆を得ることが可能だ。しかし、初期段階の目的自体が不明瞭であった。
被害が軽かったわけではないが、天使の落日を彷彿させるコロニーが墜ちるほどの大惨事には至らなかった。敵が部隊を各コロニーに分散していたために物理的な理由で不可能だったと考えるべきか、もっと別の理由があったのか。

いずれにせよ、複数のコロニーが襲撃を受けた事実が報道がされれば混乱が予想される。今回の襲撃範囲から外れている場所をと考えれば地球上だ。環境汚染も回復されているし、移住を希望する者が星の数ほど出てくるだろう。
そうなれば、地球圏の者同士で居住地の権利争いが始まり、暴動の引き金にもなり得る。鎮圧に自分達が駆り出され、生身の人間に銃を向けることになってしまう。二次被害で済めばまだマシな方だが、そんな悠長なことを言ってられないのは目に見えている。

「………」

口を閉じたフリットは奥で歯を食いしばる。
フリットの膝上に置かれた手が音がしそうなほど硬く握られているのを視認したラーガンは、ままならないことに内心では同意を示す。

正義感が真っ当に通る組織は存在しない。だからこそ、三年前にディーヴァは単独で連邦に叛いた。
当時、指揮を執っていた艦長のグルーデックが正しい道を歩んでいたかと問われると返答は難しいが、彼が己を貫いたという一点においては正義に通ずるものがあったとラーガンは見出している。
そうでなければ、あの蝙蝠退治戦役を切り抜けられなかった。そう思い込まなければ、報われなかった。

「それでですね、政府の人間だと言っていた彼らなんですが、身元の確認は出来ませんでした。全部偽造されたIDだったようです」
「足跡は追えないか?」
「すみません。難しいですね」
「綺麗サッパリですよ」

ラーガンの追求にゴードンとダニエルはお手上げですと首を振った。
他の襲撃を受けたコロニーにいる軍人達の中で自分達と同じように疑問を持つ者はいる筈だ。そちらで手掛かりが掴めれば今後の行動を決められるが、当てに出来ない可能性が高い。つまり、軍からの指示に従うしかない。

「開戦、かもな」

独り言のように呟き落としたラーガンをフリットは目を丸くして見上げた。
問い質す視線を受け取ったラーガンは憶測を続ける。

「報道は規制されても、軍の抗戦記録まで抹消できるわけじゃない。政府側にそこまでの権限はないしな」

一般市民への情報漏洩を徹底的に支配しようがしまいが、今回の件で連邦軍総司令部は政府に申し立てる。蝙蝠退治戦役の直後からヴェイガンとの交戦を支持する声が増加しているのだ。

「だから」

戦争をすることになる。遅かれ早かれ。

言葉を呑み込んでしまったが、フリットには正しく伝わっていた。三年前なら、気付いた時点で表情を歪めただろう。けれど、そうしなくなるだけの年月と思考の蓄積を垣間見てラーガンはやり切れなさに目を閉じる。

表向きには無表情を顔に貼り付けているフリットは、感情の整理が付けられず躊躇していた。誰かがいるところでは考えられない。

席を立ったフリットをラーガンは引き留めることはせず、食事はしっかり取るようにとその手に彼女が残していたサンドイッチを持たせる。フリットの背を追って足下にいたハロが消えるのも見送り、ラーガンは深く嘆息した。
妹分相手に緊張していたのだ。あの強い眼差しを真正面から向けられれば、立場よりも正義感を優先した。それを何処かで期待していた自分自身への悔恨。

今、自分に出来ることは軍人の本分を真っ当することだ。ラーガンは自身に言い聞かせると肩を回して気分を切り替える。

「助かったよ。お前達も一休みしてくれ」
「いえ、他人事ではありませんから」
「お役に立てるなら、また頼みに来てください」

ウルフとは戦友の仲だと彼の部下達には伝わっている。その認識からか、初対面の時から彼らは慕ってくれた。
自分の朗らかな性格も一役買っているとはラーガンは知りもせず、何時でも協力してくれると言ってくれた彼らに感謝する。

この件に関してミレースにも報せに行くことを考えていたラーガンだが、「すみません」と発したダニエルの声に意識を向けた。

「ドレイス中尉はあの子とも馴染み深いんですよね?」
「ああ、フリットな。もうちょっと小さい時から知ってるけど、何かあるのか?」

彼らは以前にフリットと面識がある。だから、改まって他人から尋ねられる理由が見えなくてラーガンは小首を傾げた。

ダニエルは真ん中のササバル、その向こうのゴードンと顔を合わせる。各々で頷き合うと今度は代表してササバルが口を開いた。

「ウルフ隊長の好みのタイプとは違うなぁって前から思っていたんですよ」
「あー、まぁ、そうかもしれないな」

顔面をテーブルに叩き付けそうになったのを堪えてラーガンは返事をした。
彼らの言い分は良く判る。ただ、予想の斜め上だったのだ。

体勢を立て直したラーガンは、ふむと顎を指で支える。ウルフ本人からフリットへの好意があることを打ち明けられた時は自分も意外に感じた。だから、彼らの疑念は尤もだと受け取っている。
しかし、思い返してみても驚きはしなかった。意外と感じた直後にはもう腑に落ちていたからだ。ウルフの視線がフリットに向けられていた事実をラーガンは無意識に認識していた。彼から告げられて、そういえばと気付いたわけだが。

「ウルフは見た目ああだけど、面倒見良いからな。構いたいんじゃないかと俺は思うが」

それでは納得出来ないか。尋ねるようにラーガンは三人をゆっくりと見遣った。

「確かに隊長楽しそうでした。あの子構うとき」
「けど、俺らと同じでグラマーな女が良いって豪語してて」
「彼女もスタイルは良さそうですけど、こう何て言うか、セクシーさが足りないって言うか」

話の方向性にラーガンは頭を抱えたくなってきた。だから俺の妹分をそんな目で見てくれるなと主張したい。
テーブルを両手で叩き付けたかったが、滅多に動じないフリットを見倣ってラーガンは平常心を心掛ける。

「理想と現実は違うものだろ?」

理想とは理に適った想像だ。それは自分の中だけで成り立つものであるが故に、現実で理想を求めたところで掴めないことの方が多い。
それに。と、ラーガンは思う。ウルフの場合はフリットが理想以上であったのではないかと。理想を越えたという意味ではなく、だ。

身体の発育状況を隈無く観察していたことは、この場では言わないでおこうと目を瞑る。色々なことが台無しだ。

「そういうもんですよね、人生」

知りたい答えとは巡り会えなかったが、結論が見えたことで三人は納得をみせてくれた。
肩が凝ったとラーガンは一息入れたが、「それで」と続けた彼らに固まる。今度はフリット視点でウルフはどうなのかと尋ねられ、勘弁してくれと項垂れた。

* Category : 小話
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